枕流亭

夏姫夜話

このページは中国の春秋時代に実在した女性・夏姫について探求するページです。
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けっこう長文ですので、ざっと流したい人は下を見て下さい。

[夏姫とは]
中国の春秋時代に実在した女性で、列国の公卿の閨房に侍った悪女とされてきた人物です。
この人についてはいくつかの小説作品も書かれています。
本当にこの人は悪女だったのでしょうか?

[夏姫の一生](詳細はこちら
夏姫は鄭の公女として生まれた。陳の大夫・夏御叔にとついだが、御叔の死後(?)に陳の霊公や孔寧・儀行父といった大夫たちと密通を重ねる仲となる。御叔と夏姫の間に生まれた子・夏徴舒は、事実を知って叛乱を起こした。南の大国・楚が陳の内乱に介入したため、徴舒は憤死する。楚軍は夏姫を連行し、楚の荘王は彼女を後宮に納れようとした。楚の大夫・申公巫臣が「淫色にふけってはいけない」と王を諌めて止めた。また楚の将軍・子反が夏姫を見て、彼女を妻にしようとした。巫臣は「この女は不祥の人である」と忠告してあきらめさせた。夏姫は連尹襄老にとつぎ、次いでその子・黒要と通じた。巫臣は夏姫とはかりごとを巡らして、夏姫は襄老の屍体を得るためと称して出国し、巫臣は斉への外交使節の名目でまた出国して、そのままふたりで晋に亡命した。これを怨んだ子反は、巫臣が楚に残した一族をことごとく殺し、財産を奪った。

[夏姫についての史実]
夏姫についての史実もしくは歴史的評価については以下の史料で分かります。とくに 
『春秋左氏伝』(宣公9、10、11、成公2、7、襄公26、昭公28年)
劉向『列女伝』
のふたつが重要です。
史料としてもっとも重要なのは『春秋左氏伝』ですが、
夏姫の悪女イメージを決定づけたのは、じつに後者の『列女伝』です。

おまけとして、次の史料および研究書・一般書も挙げておきます。
『史記』
『穀梁伝』
『国語』
『詩経』
下見隆雄『劉向『列女伝』の研究』(東海大学出版会)
山崎純一『列女伝 歴史を変えた女たち』(五月書房)
宮崎市定『史記を語る』(岩波文庫)

[夏姫をめぐる物語(歴史小説)]
夏姫が登場する作品は、以下の4つがあります。
中島敦「妖氛録」・・・『中島敦全集3』(ちくま文庫)
海音寺潮五郎「妖艶伝」・・・『中国妖艶伝』(文春文庫)
駒田信二「夏姫物語」・・・『夏姫物語』(徳間文庫)
宮城谷昌光「夏姫春秋」・・・『夏姫春秋』上・下巻(講談社文庫、海越出版社)
前から古い順に並べましたが、新しくなるほど文章量も飛躍的に増大しています。
前三者の作品が従来の夏姫の妖女・悪女のイメージを継承しているのに対して、宮城谷氏の「夏姫春秋」はそこからの脱却を目指しています。

おまけとして、上の作品に関連する書、または夏姫に言及しているものについて挙げておきます。
駒田信二『中国妖姫伝』(講談社文庫)
駒田信二『世界の悪女たち』(文春文庫)
寺尾善雄『中国珍談奇談物語』(旺文社文庫)
安能務『春秋戦国志』(講談社文庫)
宮城谷昌光『春秋の色』(講談社)
宮城谷昌光『沈黙の王』(文芸春秋)


[夏姫は悪女か]
「悪」とは何か。夏姫をめぐる物語の「悪」とは何か。(姦通?傾国?)
夏姫が「悪」の主体か、男たちが「悪」の主体か、両方か。
夏姫を「悪女」として(そうでないものとしても)評価してきたのは男性(社会)だったという問題。
「悪女」でないと評価する場合の危険(夏姫という一女性の主体性を軽視)。
歴史小説は「史実」をどう捉え返したか。「虚構」をどう創作したか。

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