對 酒 | |
| 對酒歌太平
時吏不呼門 王者賢且明 宰相股肱皆忠良 咸禮讓 民無所爭訟 三年耕有九年儲 倉穀滿盈 斑白不負載 雨澤如此 百穀用成 卻走馬以糞其土田 爵公侯伯子男 咸愛其民 以黜陟幽明 子養有若父與兄 犯禮法 輕重隨其刑 路無拾遺之私 囹圄空虚 冬節不斷人 耄耋皆得以壽終 恩德廣及草木昆蟲 |
酒に対いて太平を歌わん
時に吏は門に呼ばず 王者は賢にして且つ明 宰相股肱はみな忠良にして みな礼譲あり 民は争訟する所なく 三年耕やせば九年の儲えあり 倉穀満ち盈ち 斑白は負い載かず 雨沢も此の如くあらば 百穀は用て成る 走馬を卻けて以て其の土田に糞さす 爵は公侯伯子男 みな其の民を愛し 以て幽明を黜陟し 子を養うに父と兄のごとくあり 礼法を犯すは 軽重もて其の刑を隨つ 路に遺を拾いて私するものなく 囹圄は空虚なり 冬節に人を断ぜず 耄耋もみな寿を以て終りをえて 恩徳は広く草木昆虫に及ぶ |
---- ［解釈］ 酒を前にして太平のことを歌おう ときに徴税の官吏は門に呼ばれず 王者は賢く道理に通じており 宰相や股肱の臣下たちはみな忠良で みな礼儀を知って譲りあう 民はいさかい訴えることもなく 三年のあいだ田畑を耕やせば九年分の蓄えができる 倉の穀物は満ちみちて 白髪まじりの老人は重労働しないでよい 雨の恵みもこのようであれば 百種の穀物が田畑に実る 馬も戦いに用立てずにその田畑に糞をさせる 爵位をもつものは公・侯・伯・子・男 みなその民を愛し 人材の賢愚に応じて採否を決め 民を養うのに父と兄のような態度をとる 礼法を犯すものは 罪の軽い重いに応じて刑罰を分けるので 道の落とし物を拾って私物化するものはなく 牢屋の中はからっぽである 冬の季節にも裁判の必要がなく 老人たちもみな天寿を全うして 天子の恩徳は広く草木や昆虫にまで及ぶのだ | |
---- ［解説］ 政治の理想を謳い、曹操自身の為政者としての抱負を示した詩。 | |
---- ［参考文献］吉川幸次郎『三国志実録』（ちくま学芸文庫） | |