曹操「短歌行」



     短 歌 行    其 一

對酒當歌
人生幾何
譬如朝露
去日苦多
慨當以慷
幽思難忘
何以解憂
惟有杜康
青青子衿
悠悠我心
但爲君故
沈吟至今
呦呦鹿鳴
食野之苹
我有嘉賓
鼓瑟吹笙
明明如月
何時可掇
憂從中來
不可斷絶
越陌度阡
枉用相存
契闊談讌
心念舊恩
月明星稀
烏鵲南飛
繞樹三匝
何枝可依
山不厭高
海不厭深
周公吐哺
天下歸心
酒に對いて当に歌うべし
人生 幾何ぞ
譬ゆるに朝露の如し
去る日は苦だ多し
慨して当に以て慷すべし
幽思 忘れ難し
何を以てか憂いを解かん
惟だ杜康有るのみ
青青たる子が衿
悠悠たる我が心
但だ君が為の故に
沈吟して今に至る
呦呦と鹿は鳴き
野の苹を食う
我に嘉賓有らば
瑟を鼓し 笙を吹かん
明明たること月の如きも
何れの時にか掇るべき
憂いは中より来たり
断絶すべからず
陌を越え 阡を度り
枉げて用って相存す
契闊 談讌して
心に旧恩を念う
月明らかに星稀に
烏鵲 南に飛ぶ
樹を繞ること三匝
何れの枝にか依るべき
山は高きを厭わず
海は深きを厭わず
周公は哺を吐きて
天下は心を帰したり

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[珍解釈]

さあ、酒だ!歌おうぜ
人生なんてなんぼのもの
たとえるなら朝どきの露だな
時間はアッという間に過ぎちまう
思う存分ハイになって叫ぼうや
クラ〜い考えは忘れられねえ
どうやって憂さを晴らそうか
銘酒「杜康」があるだけだな

「青き青き君が襟
悠々たりき我が心」
なんて古い詩をただ君のため
つぶやきながら今ここにいる
ほら鹿が鳴きながら
野草を食ってやがるぜ
うちにいい客来てるんだ
音楽鳴らさにゃなるまいて

あかるく輝く月の光を
掬おうとがんばったってムダさ
憂いはそれでも湧きあがってきて
断ち切るなんてできやしない
縦横無尽のあぜ道越えて
わざわざ遠くうかがってくださった
君と久しぶりに飲み語らうとしよう
古い友情に乾杯だ!

月は明るくて星はまばら
カラスやかささぎは南に飛んでく
木を巡ること三べんだ
どの枝に止まるか迷っているのか
山は高くてもかまわねえ
海は深くてもかまわねえ
オレはむかしの周公のように
天下を取ってみせるぜ!

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[解説]
吉川幸次郎氏や松枝茂夫氏はこの詩を曹操の人材蒐集欲をあらわした詩と解し、入谷仙介氏は曹操の友愛心と大志をあらわした詩と解釈したが、ここでは後者を取りました。

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[参考文献]入谷仙介『中国古典選23 古詩選上』(朝日新聞社)
       松枝茂夫編『中国名詩選上』(岩波文庫)
       吉川幸次郎『三国志実録』(ちくま学芸文庫)


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