『銀河英雄伝説』を読み解くために作ったレジュメ

1.壮大な思考実験としての『銀英伝』テーマ
   「清潔な専制」と「腐敗した民主主義」の対決の仮構
   新帝国の軍事的勝利と同盟の滅亡の必然
   戦略と戦術のふたつの概念における前者の優越性
   生き残った民主共和主義者たちの苦難の道
   「……伝説が終わり、歴史がはじまる」の結語の意味
2.モデルとしての『三国志』、『史記』を越えて
   『三国志』 ・・・「三国鼎立」の群雄物語
   『史記』列伝・・・複眼的視座で見る群像
   『銀英伝』 ・・・両者の「いいとこ取り」としての疑似歴史物語とその知的興趣
3.『銀英伝』本紀ともいうべき壮大なる前史
   ◆シリウス戦役
     帝国主義的な地球による支配と解放戦争テーマ
   ◆最大の悪役か?…ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム
     歴史を一千年逆流させた反動の巨人
     故人ながらラインハルトとヤンの共通の(そして最大の?)敵
   ◆帝国と同盟の前史
     死せるルドルフ五百年の軛と民主共和主義者たちの聖人列伝
     外伝「ダゴン星域会戦記」に見られるフツウの専制対民主制
4.ステロタイプに見えて……ラインハルト・フォン・ローエングラム
   貧乏貴族から新帝国皇帝へ−典型的成功物語として
   金髪の孺子とあなどられた少年の野心と敵愾心
   愛すべき欠点の数々−シスコン、短気、激情家、好戦的、潔癖、子供っぽさ、性的無関心など
   英雄の気概−名君たらんとする意識と相反する苛立ち、破壊衝動
   戦術家への志向と戦略家としての成功の解離−バーミリオン会戦の失敗と新帝国の建設
   獅子皇帝の人事ミス…ケンプ、レンネンカンプ、ロイエンタール、ビッテンフェルト、オーベルシュタイン
   きわめて異質な女性…姉アンネローゼ
   失われた半身…無二の親友キルヒアイスの死と愛惜
   英雄の汚点−ヴェスターラント虐殺が与えた傷痕
   ヒルダとの不思議な恋愛結婚
5.天才的軍師か思想家か異端の英雄か……ヤン・ウェンリー
   軍隊と戦争を嫌いぬいた異端の軍人
   欠点か、美点か?…政治権力への嫌悪、厭世観、書生気質
   「信念」を否定する無欲恬淡男の執着する理想
   「英雄」の偶像と実像のギャップ
   ラインハルトにはない長大な歴史を見すえる視点
   戦略家への志向と戦術家としての成功の解離−同盟の滅亡と不敗の名声
   引き継がれた理想−「祭りの後」にも掲げられた民主共和主義の旗
   すれちがったジェシカ、身を投げ出したフレデリカ
6.帝国の群像
   門閥貴族たちの憂鬱−ルドルフ的価値観の終幕と金髪の孺子の下剋上、黄金獅子旗の下に集う驍将たち
   ドライアイスの剣、冷徹なる義眼…オーベルシュタイン
   愛妻家、そして信義の男…ミッターマイヤー
   忠誠と野心の間に葛藤する金銀妖瞳…ロイエンタール
   鉄壁の異名と失恋伝説…ミュラー
   猪突猛進こそ我が艦隊の本領…ビッテンフェルト
   典型的でありながらかつ個性的…ワーレン、ケスラー、メックリンガー、アイゼナッハら
   「剣に生き、剣に屍れ」の剣と忠誠…ケンプ、ファーレンハイト、シュタインメッツ、ルッツ
   友情の悲しい結末…ミッターマイヤーとロイエンタール、ベルゲングリューンとビューロー
   裏切者、背信者たちの列伝…ラング、グリルパルツァー、クナップシュタインら
7.同盟の群像
   民主共和主義の旗を奉じながら、理想を失い、腐敗を強めていく国家、「民主的に選ばれた」為政者の軍事的冒険主義−アムリッツア会戦
   「衆愚政治」の権化トリューニヒト
   ジェシカの反戦と血の弾圧−思想と立場と恋愛におけるヤンとのすれちがいについて
   救国軍事会議の国家主義と軍隊至上主義
   ビュコックの理想と親愛
   レベロの変節、ロックウェルの背信
   同盟滅亡後もくすぶる火山脈−グエン・キム・ホア広場事件
8.イゼルローンファミリー
   伝統的家族観の否定−「欠損家庭」出身者たちの陽気と快活
   ヤン・ウェンリーを核にした血のつながらぬ「家族」と家族主義
   民主共和主義者たちの「一個人」に捧げられる忠誠心
   敵味方の死者の屍を踏み越えながらも飛びかう毒舌、皮肉の数々
   士官学校出身者たちの異端思想
   薔薇の騎士−亡命者たちが舐めた辛酸
   撃墜王たちの栄光と悲嘆
   「捲土重来」で老将の得たもの
   死せるヤン・ウェンリーを奉じた彼らの未来
9.陰謀家の面々−第三勢力としてのフェザーン、地球教
   「神秘主義とテロが歴史を建設的な方向に動かすことはない」
   相容れぬ野心の輻輳…ルビンスキー、ケッセルリンク、総大主教、ド・ヴィリエ、ラング、トリューニヒト
   まさに「オウム的」であった地球教の手口
   彼らの敗北は作家の陰謀史観の否定が当然の帰結を生んだといえる
   終幕は予定調和的にすぎないか?
   しかし、陰謀家のルビンスキーは死んでも、最終的に勝利を握ったのはフェザーン(経済)なのではないか?
10.『銀英伝』の問題提起
   「たったこれだけのことが実現するのに、五〇〇年の歳月と、数千億の人命が必要だったのだ。銀河連邦の末期に、市民たちが政治に倦まなかったら。ただひとりの人間に、無制限の権力を与えることがいかに危険であるか、彼らが気づいていたら。市民の権利より国家の権威が優先されるような政治体制が、どれほど多くの人を不幸にするか、過去の歴史から学びえていたら」(10巻234頁)


[参考文献]
田中芳樹『銀河英雄伝説』1〜10巻(徳間書店)
田中芳樹『銀河英雄伝説外伝』1〜4巻(徳間書店)
らいとすたっふ編『「銀河英雄伝説」読本』(徳間書店)
『SFアドベンチャー増刊・銀河英雄伝説特集号』(徳間書店)


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