却 東 西 門 行 | |
鴻雁出塞北
乃在無人郷 挙翅萬餘里 行止自成行 冬節食南稲 春日復北翔 田中有轉蓬 随風遠飄揚 長與故根絶 萬歳不相當 奈何此征夫 安得去四方 戎馬不解鞍 鎧甲不離傍 冉冉老将至 何時反故郷 神龍藏深泉 猛獣歩高岡 狐死歸首丘 故郷安可忘 |
鴻雁 塞北を出でて
乃ち無人郷に在り 翅を挙げて万余里 行きて止まり 自ら行を成む 冬節 南稲を食み 春日 復た北に翔ぶ 田中 転蓬有り 風に随ひて遠く飄揚す 長く故き根より絶り 万歳 相当たらず 此の征夫を奈何せん 安くにか四方に去り得ん 戎馬 鞍を解けず 鎧甲 傍を離せず 冉冉老い将に至るべし 何れの時ぞ故郷に反らん 神龍 深き泉に藏み 猛獣 高き岡を歩む 狐死するとき帰らんとして丘に首う 故郷安くんぞ忘れ可けん |
---- [解釈] 渡り鳥は塞北を出て つまりは無人の郷にあって 羽を伸ばすと一万余里を 行くも止まるも本能のまま 冬には南の稲をついばみ 春にはまた北へ翔んでいく 田畑の中には蓬が転がり 風にしたがい遠く舞い上がる 長いあいだ根よりへだたり 一万年たっても巡り会わない この出征者たちをどうしよう どうしても自由に去ることはできない 馬から鞍を解くことはできず 鎧かぶとはそばを離せない そのうち老いが迫ってくるのだ いつの日に故郷へ帰れるだろうか 神竜は深い泉にひそみ 猛虎は高い岡を歩む キツネは丘にこうべを向けて死ぬ 故郷を----どうして忘れることができよう | |
---- [解説] 曹操が兵士の悲しみを歌った詩とされています。通釈に従いました。 |
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[参考文献]伊藤正文・一海知義編訳『中国古典文学大系16 魏・晋・六朝詩集』
吉川幸次郎『三国志実録』(ちくま学芸文庫)